韓国
済州
海とオルムのあいだの島、済州
黒い石垣を風が抜けていく
済州(チェジュ)は、長い火山活動が残した大地から石を取り除き、畑を拓いて人々が暮らしてきた島です。中央には韓国で最も高い漢拏山(ハルラサン)がそびえ、山すそから海岸まで約360の小さな火山「オルム」が点在します。畑を囲む黒い玄武岩の石垣、息を止めて海に潜りアワビを採る海女、豚骨をじっくり煮出したスープの麺――この島の風景と味の多くは、火山と海から生まれました。空の玄関口は済州国際空港。ソウルの金浦(キンポ)空港との路線は、2025年に座席数で世界最大の航空路線でした。同じ島でも東と西、済州市と西帰浦(ソギポ)では海の色も一日の流れも違い、宿をどこに置くかで旅の印象がずいぶん変わります。
火山がつくった島
済州の大地は、ほぼすべて火山から生まれました。漢拏山の周りの小さな火山から流れ出たさらさらの玄武岩溶岩が、何度も海岸へと下り、いまのなだらかな島の形をつくったのです。だからどこへ行っても、まず目に入るのは小さな穴がいくつも開いた黒い石。畑の境も、墓の囲いも、家の塀も、この石で積まれています。 漢拏山、城山日出峰(ソンサンイルチュルボン)、拒文(コムン)オルム溶岩洞窟系は、2007年にそろってユネスコ世界自然遺産に登録されました。山頂の火口、浅い海から生まれた峰、地下を流れた溶岩の道――火山島ができあがるまでのいくつもの場面が、ひとつの島にそのまま残っています。
漢拏山――山頂とウィッセオルム
山頂の火口・白鹿潭(ペンノクタム)へは、城板岳(9.6km・片道約4時間30分)と観音寺(8.7km・約5時間)の2コースからしか登れません。白鹿潭は西半分が粗面岩、東半分が玄武岩でできた珍しい火口です。 山頂まではきついと感じたら、霊室(ヨンシル)コースを。霊室休憩所からウィッセオルムまでは約3.7km、1時間30分ほど(登山道は南壁分岐点まで計5.8km続きます)。屏風のように並ぶ岩壁を過ぎると、背の低い木だけが残る高原がふいに開けます。 漢拏山の森は高さによって姿を変えます。標高600mまでは常緑広葉樹林、1,400mまでは落葉広葉樹林、その上は亜高山帯の植物。韓国に自生する約4,000種の植物のうち、約2,000種がこの山に育ちます。
東部――日の出の峰と溶岩の道
城山日出峰は、約5千年前、浅い海で熱いマグマが水と出会って爆発し、積もった火山灰でできた高さ180mの峰。頂上に立つと、すり鉢のような火口が足もとに広がり、海の向こうに牛島(ウド)が見えます。 内陸の拒文オルムでは、何度も噴き出した溶岩が斜面を下って約14km先の海岸まで流れ、地下に洞窟を残しました。万丈窟(マンジャングル)はそのひとつで、全長約7.4km。いまは第2入口から1kmの区間だけを歩けます。その終点に立つ高さ約7.6mの溶岩石柱は、世界最大規模といわれています。2023年12月に入口付近で落石事故が起きたあと整備工事のため閉鎖され、2026年5月30日に再開しました。 拒文オルムは、予約した回に解説員の案内で森の道を歩いて登ります。山頂コースは約1時間、火口コースは約2時間30分、全体コースは約3時間30分。午後1時30分以降に出発する回は、全体コースを歩けません。
西と南――水の色と断崖
西の海は日が沈む側なので、夕方に訪ねたい場所。挟才(ヒョプチェ)海水浴場の沖には小さな飛揚島(ピヤンド)が浮かび、白い砂の上に浅い水が長く広がって、海が淡い翡翠色に見えます。 南の西帰浦の海岸は、また違う表情です。山房山(サンバンサン)のふもとの龍頭(ヨンモリ)海岸は、漢拏山よりずっと前に浅い海の水蒸気マグマ噴火でできた、済州で最も古い火山体。海に削られた地層が、本のページを重ねたように続きます。観覧時間はその日の満潮時刻と天候で変わるので、西帰浦市公営観光地のインスタグラム(@6sot_official)で事前に確認を。中文(チュンムン)の大浦(テポ)海岸では、六角形の石柱が並ぶ柱状節理帯が波を受けて立っています。この海岸線に沿って済州オルレの道が続き、1区間歩くだけでも村の路地と海辺の岩場を交互に通ります。
海女と海の食卓
済州の海辺の村には、いまも呼吸装置を使わずに海へ潜る海女(ヘニョ)がいます。80代の海女もいて、一度に1分ほど息を止め、水深10mまで潜ってアワビやウニを採ります。海面に上がるときの口笛のような息の音は「スムビソリ」と呼ばれます。済州の海女文化は2016年、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。 だから済州の食卓には、まず海が並びます。ウニ入りのワカメスープ、銀色のタチウオを大きくぶつ切りにした煮付け、こんがり焼いたアマダイ。豚肉も海と同じくらい大切です。豚骨スープに太麺を入れてゆで豚をのせたコギグクス、そのスープに海藻のホンダワラを加えて煮込むモムグク、焼き台で温めたメルジョッ(カタクチイワシの塩辛)につけて食べる黒豚焼きまで。済州市の東門(トンムン)市場と西帰浦毎日オルレ市場に行けば、こうした料理と旬のミカンが一度にそろいます。
4・3を記憶する場所
1947年3月1日の警察による発砲事件が起点となり、1948年4月3日には南朝鮮労働党済州道党の武装隊が武装蜂起しました。1954年9月21日に漢拏山の立ち入り禁止区域が全面開放されるまでの7年7か月、武装隊と討伐隊の武力衝突と鎮圧の過程で、2万5,000〜3万人の住民が犠牲になりました。これが済州4・3です。 済州市奉蓋洞(ポンゲドン)の済州4・3平和公園には、犠牲者の名前と亡くなったときの年齢を刻んだ刻銘碑があり、遺体が見つからなかった人々のための行方不明者標石4,138基が野に並んでいます。平和記念館は無料で、毎月第1・第3月曜は休館。ここを訪れたあとは、オルムと海岸のあいだで通り過ぎた村々が、少し違って見えてきます。
3泊4日のモデルプラン
Day 1 — 済州国際空港着 → 東門市場でコギグクス → 済州4・3平和公園 → 東部へ移動し城山周辺に宿泊 Day 2 — 朝の城山日出峰 → 拒文オルム(午前の回を予約)または万丈窟 → 午後は牛島 → 夕食は黒豚 Day 3 — 霊室コースでウィッセオルム(または早朝発の城板岳山頂登山) → 山房山・龍頭海岸(当日の観覧時間を確認) → 挟才海水浴場で夕日 → 西部に宿泊 Day 4 — 大浦柱状節理帯 → 西帰浦毎日オルレ市場 → 済州国際空港
- おすすめの季節
- 3〜5月(春・菜の花)、9〜11月(秋・ススキ)
- おすすめの日数
- 3〜5日
食べたいもの
- 黒豚焼き(メルジョッにつけて)
- コギグクス(豚骨スープの麺にゆで豚)
- タチウオの煮付け・アマダイ焼き
- モムグク(ホンダワラ入りの豚スープ)
実用的なヒント
- 白鹿潭のある山頂へ向かう城板岳(ソンパナク)・観音寺(クァヌムサ)の2コースは事前予約が必要です。登山道に売店はないので、水・行動食・雨具は持参を。
- 幹線・支線バスは距離に関係なくICカード1,150ウォン(現金1,200ウォン)。降車タッチから40分以内に乗り換えれば、2回まで乗り換え割引があります。
- 東部は休みの日から予定を組むのが確実。拒文オルムは訪問前月1日午前9時から先着順の予約制で、毎週火曜は休み。城山日出峰は毎月第1月曜、万丈窟は第1水曜が休館です。
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